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栃木県避難所ニーズ調査報告(4月)

福島乳幼児・妊産婦支援プロジェクト
栃木県避難所ニーズ調査報告(4月)
2011年4月16日~5月10日

国際学部付属多文化公共圏センター員
阪本公美子
2011年5月13日

1.概要
1-1. 目的
本プロジェクトは、地震・東電原発事故の影響でもっとも脆弱である集団の一つである乳幼児と妊産婦を対象とする。この調査は、本プロジェクトの事前調査として、福島県から栃木県に避難してきている乳幼児家族や妊産婦の状況を把握した。この視点は、これまで社会における脆弱なグループに配慮をし、異なる文化・社会の共存を目指してきた多文化公共圏センターの立場も一貫性がある。また、栃木県にある国立大学として、栃木県における受け入れ体制について調査することには妥当性がある。
本プロジェクト並びに本調査は、上記の状況・ニーズ把握を研究上の目的とするが、地域貢献ならびに人道的な見地から、インタビュー対象者のニーズに対応するためのコーディネーションもその活動に組み込んでいる。つまり、把握したニーズに対応できる行政・市民団体の活動に関する情報をインタビュー対象者に提供し、必要に応じてニーズを行政・市民団体に伝達し、対応のための提言も行った。なお、本調査は、4月に閉鎖する避難所に対して優先的に行った。

1-2. 方法
(1) 栃木県・福島県、自治体による情報提供、並びに協議

(2) 全避難所に対する電話による問い合わせ、並びに一部訪問

(3) 4月閉鎖予定の避難所を優先し、避難所が当事者との接触を許容し、当事者が面会を合意した場合、避難所を訪問し、当事者にインタビューを行った。なお、電話による問い合わせにおいて避難所担当者やボランティアが当事者のニーズを綿密に把握・対応しており、乳幼児家族が5月以降地元における居住が既に決まっている場合など、訪問を見送った避難所もある。先方に対するインタビュー方法の説明として、インタビュー対象者の心配や悩みなどに関する全般的な相談とし、必要に応じて医療スペシャリスト(看護師・妊産婦)と同行する旨も明示していた。ただし、栃木県内の避難所において既に行政による保健師の巡回が行われており、重複を避けるために訪問が断られる場合にも遭遇し、後半には医療ケアに限らないこともつけ加えた。実際のインタビューは、基本的事項以外は、当事者の心配・悩み・不満・不安などの相談を聞くスタンスで行った。その上で、それらの心配・悩み・不満・不安などを解消できるような情報について既に入手済みの場合は、情報提供を行った(配布資料参照)。面会は、時間制限を設けなかったが、1世帯、概ね30分~1時間程度行った。

(4) 人道的な立場から、後日、必要に応じて、ニーズと関連する情報などを行政に確認し本人に伝達したり、ニーズを満足しうる市民サポート団体を紹介したり、行政に提案をしたりした。

2.栃木県内における避難所の状況
2-1. 4月の避難所の状況
・ 栃木県においては、24市町48ヶ所に避難所があり、1,040人の避難者がいた。そのうち、福島県の避難者は1,029人であった(栃木県ホームページ4月13日現在)。
・ 栃木県・福島県は、4月を目処に一次避難所を閉鎖する方針を決定しており、二次避難所に誘導していた。そのため、福島県は4月1~3日に調査票による調査を行い、4月18日と19日に福島県が栃木県とともに閉鎖予定の全避難所で説明会・聞き取り調査を行った。
・ 乳幼児・妊産婦がいる23ヶ所の避難所に電話確認したところ、20ヶ所の避難所は4月中・4月を目処に避難所の閉鎖が予定されていた(4月15日~25日)。その他、5月10日に閉鎖した避難所と、7月までの避難所が2ヶ所ある。

2-2. 避難所における乳幼児・妊産婦の数(表1参照)
・ 栃木県・福島県が行った調査票の集計によると、23ヶ所に137名の乳幼児、2箇所に4名の妊産婦がいた(4月1~3日)。なお、県発表によると妊産婦は、別途20名、妊婦専用避難所住宅にいる(4月14日現在)。
・ その後、避難所に4月25日の間に電話で問い合わせた結果、乳幼児は20ヶ所に87名となっていた(4月15日~25日)。


表1:栃木県内における避難所における乳幼児と妊産婦
table1.png

3.インタビュー対象者
3-1. 訪問避難所
訪問した避難所は、乳幼児・妊産婦の存在、避難所の4月閉鎖、避難所の理解、当事者の意向・都合などの要件を踏まえて、下記の日時に下記担当者が担当し、当事者にインタビューを行った。
・ 宇都宮市:姿川生涯学習センター付属体育館
4月16日(土):舩田クラーセンさやか、小林ひとみ、津田勝憲、吉村健吾、阪本
4月20日(水):津田、阪本
・ 小山市(県南):栃木県立県南体育館
4月19日(火):津田、阪本
4月20日(水):小林、阪本
・ 足利市:セミナーハウス
4月24日(日):秋元明日香、阪本
・ 日光市:今市青少年スポーツセンター
4月25日(月):小林、阪本
・ 壬生町(県南):壽陽ヶ丘ふれあい広場
4月26日(火):津田、阪本
・ 栃木市:アダバンスフィルムディバイスインク合戦場寮
5月10日(月):須田千温、津田、阪本

なお、以下の避難所も訪問し、担当者に状況について聞き取りを行ったが、当事者は不在・都合があわなかった。
・ 宇都宮市:グリーンパーク茂原管理棟会議室
4月16日(土):舩田、小林、津田、吉村、阪本
・ 栃木市:大平少年自然の家
4月23日:津田、阪本
・ 日光市:日光市大沢公民館
4月25日:阪本

3-2. 避難所の乳幼児父母・妊産婦
6つの避難所で、13世帯に行ったインタビュー対象者の内訳は、以下の通りである。
・ 避難所(10世帯)、県営住宅(3世帯) 。
・ インタビュー相手:母親(11名)、妊産婦(2名:うち一人は乳幼児の母親)、父親(3名:うち2人は夫婦)
・ 乳幼児:未就学乳幼児(21名)、就学年齢児童(2名)
・ 出身地:南相馬市(4世帯)、いわき市(3世帯)、楢葉町(2世帯)、浪江町(2世帯)、葛尾(1世帯)、郡山(1世帯)
・ 一緒に避難してきた単位:拡大家族(夫含む3、夫残して3)、夫婦核家族(4)、夫を残して母子(2)、母子家族(1)

3-3. 聞き取り・協議を行った主な行政担当部署・市民団体など
・ 栃木県災害対策本部
・ 福島県災害対策本部(栃木県出張者)
・ 栃木県保険福祉部医療厚生課
・ 宇都宮市自治振興部
・ 日光市災害対策本部
・ 日光市健康福祉部子育て支援課保育係
・ 宇都宮市民活動サポートセンター、宇都宮まちづくり市民工房
・ とちぎ市民活動推進センターくらら
・ 社会福祉法人栃木市社会福祉協議会
・ 小山市ボランティア支援センター
・ 小山市市民生活化市民協働推進係
・ 日光市社会福祉協議会ボランティア・福祉教育推進センター
・ 栃木労働局ハローワーク宇都宮
・ ハローワーク宇都宮宇都宮公共職業安定所
・ NPOおせっかいハウス
・ 栃木県立大平少年自然の家
・ その他、避難所担当者

4.聞き取り結果
本節では聞き取り結果をまとめ、次節で、それらの聞き取り結果で明らかになったニーズの対応について明記する。

4-1. イッシュー
インタビュー対象者は、避難所の生活について概ね満足しており、住環境、食事、物資などについては、顕著な問題はなかった。
姿川では体育館に畳と仕切りが迅速に提供され、小山では暖かい食事が提供された。イベントも多く開催され、子供たちも自由に遊んでいた。壬生では、地域からの食材の提供があり、地域の人との交流のある中で避難者が自炊する生活を営んでいた。足利でも、さまざまなイベントが開催され、ボランティアに関しても情報を事前に周知され、避難者の積極的な参加が見られた。日光市では、朝のミーティングで避難者の状況把握や情報提供が行われていた。
ただ、物資については、育児時のニーズとして、おんぶヒモ、母乳パッド、男児用スボンなどあれば助かったという内容が若干あった。また、インターネット環境やファックス等の情報端末が整っていない避難所もあり、情報面で不便はあった。
とはいうものの、むしろ、後述の通り、今後に対する不安や、仕事とマッチした生活支援に関するサポートが不十分であった面の方が際立っていた。

(1)4月末で避難所が閉鎖された後の行き先
すべての聞き取り協力者に共通した心配事として、4月に避難所が閉鎖され、その後の行き先が決まっていないことが挙げられていた。4月1~3日に、5月以降の行き先について、福島県による調査票によるアンケートがあった。アンケート項目は以下のとおりである(一部省略)。

・ 避難所名:市・町、避難所
福島県では、避難所で過ごされている方の生活改善を目的として、希望者について福島県内の仮設住宅の環境が整うまでの間、一時的に旅館・ホテルなどへ移動を行うこととしています。ついては、避難所の入所者の意向を調べたいのでご家族と相談して、下記の調査票に記入の上、平成23年4月3日(日曜日)15時までに避難所窓口に提出してください。
1. 世帯の状況:住所、連絡先、名前、続柄、性別、生年月日
移動を希望する世帯のご家族のうち移動を希望しない方がいる場合はこの欄に「×」と記載してください。
2. 避難している理由
① 住宅が倒壊して住めない
② 原発事故による避難(30km圏内)
③ 30km圏外であるが自主避難
④ 上記以外(   )
3. 栃木圏内の旅館・ホテル等の移動についての意向
  *福島県の居住地等を考慮のうえ、移動先を決めさせていただきます。
世帯での旅館・ホテル等への移動を希望する、希望しない。
「希望する」場合は、5,6,7…「希望しない」場合は4を記入して下さい。
4. 栃木県内の県営住宅、雇用促進住宅等への一時入居そ希望しますか。
* 避難者ご自身の家賃の負担はありません。(光熱水道等は自己負担)
 県営住宅は原則6ヶ月以内
① 希望する。 ②希望しない。…8を記入して下さい。
5. 栃木県内の小学校・中学校・高等学校への就学希望の意向
① 希望する。 ②希望しない。
*移動先は就学希望の学校の場所等を考慮しますが、希望どおりとならない場合もあります。
6. 旅館・ホテル等への移動手段:自家用車、それ以外
7. 特記事項
*旅館・ホテル等への移動にあたっての特記事項がありましたら記入願います。
(例:寝たきり・重度心身障がい者・妊婦・乳児を抱えた方・ペット同伴の方 等)
8. 今後についての意向
① 福島県の自宅に戻る。
② 福島県内の避難施設に移動する。
③ 福島県内の親戚宅に避難する。
④ その他(           )



その後、4月18-19日に福島県による説明会が行われた。しかし、このプロセスについて、以下に示した生活環境に関する情報提供がない中、行き先の選択を迫られているための戸惑いが感じられた。

情報不足
判断が急がされているにもかかわらず、例えば選択肢に挙げられているホテル・旅館や公営住宅周辺の保育園・幼稚園・小学校、医療サービスに関する情報は全く提供されていなかった。インタビュー対象者にとって、子供の教育や健康についてどのようなサービス受けられるか、ということは、行き先を選ぶにあたって重要な情報である。例えば、保育園や幼稚園が近くにあり、入れるのかどうか(入れる場合はその料金)、小学校にもスムーズに入れるのか、どのような医療サービスが受けられるのか、といったことを選択をする時点で判断材料として必要としていた。また、ホテル・旅館の場合、離乳食や洗濯がどうなるのか、という説明も全くなかった。栃木県や福島県は4月中を目処とした移動を、避難所や避難者に示唆しており、行き先地域については周知していたが、ホテル・旅館名ですら直前まで知らされていなかった。

5月以降、もともと市営にいた妊産婦2人に加え、3世帯が市営住宅に移り、3世帯が那須のホテル・旅館に移り、2世帯が福島にもどった。福島に帰った2世帯はいずれも福島にて仕事をしている夫を残し、30km圏外から母子で避難してきた世帯である。1世帯は避難生活に疲れ、もう1世帯は福島の親戚の圧力と、避難所の閉鎖という要因が重なり、帰ることとなった。

なお、栃木市のアダバンスフィルムディバイスインク合戦場寮は、3月の入居時に3ヶ月滞在可能だという情報があったにもかかわらず、4月に二次避難所への誘導があり、避難者から延長の希望が出た。そのため、栃木市と民間企業ダバンスフィルムディバイスインクが合意し、7月まで延長された。

(2)保育園・幼稚園・託児
母親11人中10人が、保育園、幼稚園、託児所の重要性を訴えている。
もっとも生活上必要であったのは、母親が仕事をする必要があるため、保育や託児が必要である、というニーズであった(母親11人中2人)。
多くのインタビュー対象者(母親11人中5人)は、子供の教育の継続性を問題視していた。避難所で保育園・小学校に通わせはじめたインタビュー対象者もいる一方で、避難所が4月末で閉鎖だと知っているため保育園・幼稚園への入園の申し出があったにもかかわらず断念した者もいる。そういった意味で、行き先において保育園・幼稚園に関する情報がなく、ホテル・旅館に移動しても数ヶ月でさらに移動が促される状況があるため、継続性に不安がある。また、避難所から上の子供を小学校に通わせていた2世帯は、子供の転校をなるべくさせたくない、という希望がある。
 栃木県に居住を決めたインタビュー対象者は、地域に保育園がなく、幼稚園しかないため、授業料が高く(2~3万円)、あきらめざるを得なかった。当事者が市の担当部局に問い合わせたところ、民間なので個別に交渉せねばならないという。

(3)公営住宅などにおける家財道具
県営住宅や雇用促進住宅に入ることを躊躇している最大の理由が、家財道具を冷蔵庫や洗濯機から揃えなければいけないことである。足利市では、家具を市民からの寄付による提供していた。しかしすべての公営住宅に入る避難者に対して市民が家財道具を提供するような体制が整っていたわけではない。妊婦に特別に用意された県営住居も、家財道具が用意されていなく、妊娠中、一から生活のために洗濯機など基本的な家財道具を揃えなければいけなかったという。

(4)就職・補償・義援金など
・ 13世帯のうち、5世帯では夫が福島で仕事をしていた。そのうち30km圏内の3世帯は、両親や義両親と母子で避難していた。他方、30km圏外の2世帯は、母子で避難していた。
・ 4世帯が休業中であり、収入に対する不安があった(30km圏内)。その中で例えば、自営業で、今後の仕事の継続に悩む世帯もいた。
・ 3世帯は、栃木や群馬で仕事を見つけていた。そのうち2世帯は30km圏内であり、1世帯は30km圏外であった。その中で1世帯は、夫の給料だけで家族全体を支えるのが難しく、妻も子供を保育園などに預け働きたいという希望もあった。
・ 1世帯は失業中であり、働きたいという希望があったが、シングル・マザーのため、求職も困難であった。
・ 全く補償も義援金のない30km圏外の避難者にとっては、何らかの就職をして収入を得ることが重要であるが、避難所における積極的な情報提供はない。例外として、義理の父母が孫のことを思い送り出し、住居もアパートであったインタビュー対象者は、最初から、自活し生活基盤を栃木などで整えることを決めており、本人が積極的にハローワークに出向いて仕事を決めていた。しかし、それは子供をみることができる母親がおり、父親が仕事をきめてきたパターンである。他方、シングル・マザーは、子供を預けないと就職活動すらできないため、託児所や保育園が自活ための必要条件となる。
・ 仕事を得たインタビュー対象者からは、ハローワークの「移転費」が避難所から勤務地のみカバーしているため、福島県の住居から新しい勤務地への移転費の対象とならず、実態に即していない状況が明らかになった。このような状況は、少なくとも2世帯いた。
・ 東京電力の補償の一時金や、自治体のよる義援金が明示された30km圏内の家族も、未だ支払いが行われておらず、現金がなく、生活も容易でない。避難所に説明にきた東電の社員は、いつ補償が支払われるのか、というな質問にも答えられなかったという。家に帰る目処もなく、仕事があっても不安定な中、補償されているといえど、いまだ一時金や義援金すら入金されていない。

(5)身体・精神面の健康
避難所における健康については、保健師や医師の巡回もあり、大きな心配はないようである。ただ、避難所においてインフルエンザやノロウィルスが流行した場合の心配はあった。また、30km圏外の場合、医療費が原則有料であることも更なる負担となる。幼児に関する医療補助も自治体によって異なるため、避難先で支払う必要が発生し、出身自治体からいずれの返金される可能性があるものの、避難中の出費となってしまった。
 地震や津波を経験し、子供たちの精神的な負担を心配する親も多かった。5世帯が、地震のことを思い出し泣くなど、子供の異変に気がついており、心配をしていた。
インタビュー対象者の2人は、本人がストレスを抱えていた。うち一人は県営住宅に一人で入っているため、話し相手がいないために精神的なストレスを抱えている妊産婦である。また、公営住宅に入っている時期も、出産するまでの時期とは異なるため、出産をどこでできるのか、という心配もあった。もう一人は、津波のフラッシュバックが精神的なストレスとなっていた。
さらに、福島県出身であるということで、子供の差別やいじめの対象とならないか、不安視する声もあった(3人)。

(6)情報
 避難している家族は、さまざまな情報を求めている。
• 東電による補償に関する情報
• 自治体などからの義援金に関する情報
• 安否確認に関する情報
• 二次避難所の生活環境に関する情報
• 子供の教育(保育園・託児所・小学校)に関する情報
• 医療サービスに関する情報
• 生活支援に関する情報(就職など)
• 当事者間の情報交換などである。
 義捐金や賠償金に関する各種申請書は、コンピューターによるダウンロード形式になっていることが多く、PC・インターネット環境のない場合は困ることがあるという。多くの避難所ではインターネットに接続したコンピューターにアクセスできるが、今後、自活して民間のアパートなどに入った場合、情報が入ってこないかもしれないという懸念もある。
 携帯電話に関しては、多くの避難者が所持しているが、料金節約のために利用を減らしている現状もある。震災当時は、友人間で連絡を取り合っていたが、携帯電話が無料だったのは3月末までのため、利用を控えていたインタビュー対象者もいた。

4-2. 多様な対象者と異なるニーズ

(A)家族形態による多様なニーズ
家族形態によってニーズもさまざまであった。福島に夫を残して母子で避難してきた家庭、夫婦子供世帯で避難してきた家庭、シングル・マザーが母子で避難してきた等、その家族構成で、状況は異なってくる。
上記の通り、夫を残して母子で避難してきた世帯は子供の健康への影響を考えて避難してきたにもかかわらず、福島にいる夫や親戚は必ずしも同様の価値観をもっておらず、家族内での意見の不一致がある。避難が長期化し、一人で子供の世話をする苦労や孤独感とともに、夫や親戚が帰郷を強く促すという重圧も見受けられた。
他方、夫婦世帯は、もともと妻の両親と仕事を一緒にしていたが、両親が避難をすすめ、核家族で避難していた。家のローンもなくアパートであったため、避難後福島以外での生活再建を決めており、既に仕事もアパートも決定していた。
シングル・マザーの場合、生活の糧が必要な上、保育園や託児所といったサービスがない限り、就職どころか求職も難しくなる。
このような観点からみると、世帯構成によってニーズが異なる。シングル・マザーのように育児と仕事の両方に責任を持っている母親へは、託児や求職など双方においてサポートが必要である。他方、母子で避難してきた乳幼児家族や妊産婦への心理的サポート、夫婦世帯へのサポートなど、異なるニーズに対しても敏感である必要がある。

(B)妊産婦
避難所に正式に滞在している妊産婦には、諸事情で聞き取りが出来なかったが、避難所における本相談の話を聞いて、すでに公営住宅に避難している2名の妊産婦が聞き取りに協力をしてくれた。この点は、特別な施設を用意されている妊産婦も、インタビューといった外部者と話をする機会を求めていると思われる。
うち一人は、夫が福島で家業の整理を行っているため、単身の生活で孤独感がある。そのうえ、公営住宅に居られる期限が出産前までであり、出産までの不安がある。もう一人は、出産後の居住地域について福島に帰りたい夫や夫の両親の意向があり、意見が一致していない。

5.ニーズ対応
 上述のニーズに対しては、表2のとおり、それぞれのアクター(行政:県・自治体、避難所、ハローワーク、社会福祉協議会、サポートセンターやボランティアセンターなど市民団体、その他民間機関)が、対応していたイッシューと、乳幼児家族や妊産婦家族のニーズがなんらかの理由で満たされていなかったイッシュー、避難所によって状況が異なっていたイッシューがある。
 避難所は、衣食住を満たすといった基本的なニーズに関してそれぞれ十分な役割を果たしていた。
 自治体の保健師の巡回は、回数や頻度は場所によって異なったが、インタビュー対象者からも確認しており、健康管理の役割が果たされていた。心のケアについては、カウンセリングといったサービスはあるものの、周知されていなかったように思われ、子の心のケアについて悩んでいた親もいた。自治体(日光市・宇都宮市)によると保育園は、保育士の数が十分であり、父母の勤務(希望)などの条件を満たせば、被災者に対しては特例で受け入れる方針である。ただその情報は、避難者にあまり周知されていなかった。
 それぞれの避難所に対応する形で、社会福祉協議会、サポートセンターやボランティアセンターなどが存在していた(表1参照)。例えば、宇都宮では宇都宮サポートセンターが対応可能である。しかし、避難所との関係の深さは、まちまちであった。たとえば足利などは、市営に入る妊婦さんに家電製品を揃えていた。サポートセンターに、避難者のニーズに関する情報が届いておらず、準備はあるにもかかわらず「もっと早く知りたかった」という妊婦さんもいた、という状況もあった。
 表2で示したとおり、多くのニーズは、行政や市民団体の支援の情報が、当事者に届くことによって満たされる可能性が高まる。例えば、宇都宮サポートセンターでは、宇都宮市内において直接・間接的に、家財道具の提供(数に制限はある)、アパートに関する相談会、託児(但し登録者の数には限りあり)、農家等における仕事に関する情報がある。
 なお、インタビュー対象者に対しては、それぞれのニーズについて聞き取り、その場で情報提供できるものは提供し、後日、情報提供するために連絡先(電話やメール)なども聞き、新たな情報を入手次第連絡した。

表2:イッシューと対応アクター
テーブル

5-1. イッシュー別対応

(1)4月末で避難所が閉鎖された後の行き先:情報提供
 4月の避難所の閉鎖については、栃木県担当者と数度にわたり、協議した。県担当者によると、4月を目処としており、かならずしも4月いっぱいで追い出す、というスタンスではないという説明であった。ただし、調査票アンケート、説明会などを行い、二次避難所から二次避難所に誘導すると同時に、30km圏外の避難者については、帰郷への誘導の圧力があった。ここでは、栃木県に「平等に」「大目にみている」という善意を貫徹し、30km圏外の避難者も同様に、栃木県で安心して避難し続けられる体制が望ましかったと思われる。現在、福島県の避難民の把握が困難で、コミュニティの崩壊が問題とされているが、福島県・栃木県・自治体などの行政による公的なサポートを30km圏外の避難者に提供できなくなる状況になると、ますます県民の把握が難しくなると考えられる。
 栃木県に対しては、旅館・ホテルの位置する地域の、保育園・幼稚園・小学校への入園・入学に関する情報、医療サービス、離乳食が旅館やホテルで用意できるのかどうか、洗濯はどうなるのかなど、きめ細かい情報も提供するように依頼した。しかし、栃木県に提言している間も(4月25日)、福島県からの災害対策本部担当者は、避難者と二次避難所のマッチングに奔走しており、調査者が直接依頼をする余裕もなかった。よって、依頼に関わらず、このような詳細は必ずしも避難者には提供されることなく、移動直前にホテル・旅館名が伝えられたと考えられる。このように子どもを持つ親や妊産婦と、福島県・栃木県担当者の間に、移動のために必要な情報に関する意識の差が存在していた。

(2)保育園・幼稚園・託児:行政、市民サポートで補足
日光市福祉部子育て支援課保育係(4月25日)、宇都宮市子ども部保育課(5月1日)に問いあわせたところ、保育園は定員に達しても、避難者に対しては、親が仕事をしているか仕事をする意思があるという要件を満たす場合、保育士が充分である場合に限り、特例で受け入れる方針を確認した。その点は、日光市・宇都宮市に移転予定として関心のあったインタビュー対象者に情報を提供し、連絡先なども伝えた。
また、万が一のための臨時の託児支援について、数に限りはあるものの宇都宮サポートセンターで登録者を紹介できるシステムも、複数のインタビュー対象者に紹介した。今後、公的・民間による保育・託児が充分にニーズに応じているかどうか、聞き取り調査を継続し、判断していく必要がある。
 足利市における民間の幼稚園については、課題として残る。

(3)公営住宅などにおける家財道具:行政→市民サポート
栃木県担当者に、公営住宅などにおける家財道具の問題を伝え、社会福祉協議会などと連携し、避難者(特に妊産婦)に対して、家財道具が提供する方法の検討を依頼した。
また、既に宇都宮サポートセンターで行っている家財道具の提供に関する情報を、宇都宮にて必要としているインタビュー対象者には情報提供した。但し、宇都宮サポートセンターにおける家財道具の提供には限りがあるため、必要に応じて、家財道具のリユースをすすめている学生団体にも支援可能性を相談中である。

(4)収入や補償:
職業を得て自立支援するための情報は避難所で欠落しており、県担当者にも提言したが、この点は避難所という性質上、積極的な情報提供は難しいという判断であった。ハローワークも、各種助成金について一部避難所で説明を行っている(たとえば、依頼のあった姿川体育館)が、依頼があった場合のみとなる。他方、5月以降の一次避難所の延長を市と企業の合意で決定した栃木市では、積極的にハローワークや栃木市・栃木市商工会の情報提供を行っている。福島からの避難が長期化する中、それぞれの避難者がどのように経済的な自立ができるような情報や環境を、県・自治体、ハローワーク、民間企業、市民団体が、連携をしながら模索する必要がある。
実態に即しておらず、対象外となる雇用者が出ている移転費の問題については、ハローワークが栃木労働局を通して厚生労働省に上げていたが、福島県からの移転費は支給できないという結論であった。しかし、避難者が栃木県内に仕事を得て移転をする場合、福島第一原子力発電所の事故の状況を鑑みれば、家財道具は福島県内の自宅にあることが容易に推測される。ハローワークの担当者の話では、異なる県から複数事例が厚生労働省に届くことによって、政策の修正がありえる。よって、新潟、横浜、東京など他地域における調査で、類似した事例に注意し、厚生労働省に対する働きかけも視野に入れた支援も考えなければならない。
補償については、今後20km圏内、20-30km圏内の避難地域の住民に対して、どのような形で支払われるか、注視する必要もある。

(5)身体・精神面の健康:医療費の交渉と心のケア
30km圏外の場合の医療費は、原則有料であったが(3月23日付けで、震災により失業した被災者も無料とする決定が残酷的にだされた)、宇都宮市内において救急経験のあるボランティアの働きかけによって無料となっている事例もあった。類似した試みが他でも模倣されることが望まれる。それらからもれる乳幼児医療については、可能な限り、出身自治体か避難先の自治体の補助をスムーズに利用できる制度が必要である。
子供たちの心のケアについては、親が見守り、長期化した場合、原則的に、各自治体の窓口の相談が可能である。ただし、本災害のインパクトはかなり強かったと思われ、既に他地域で心のケアを行っている日本ユニセフ協会の経験を踏襲し、子どもたちの心のケアに関して積極的に癒す試みも効果的であると考えられる。

(6)情報
栃木県内においても、避難者が震災に関する情報収集や行政情報及び申請を行うために、インターネットにアクセスできる環境整備が望まれる。多くの一次避難所ではインターネットにアクセスできる環境が整えられていたが、今後、二次避難所、公営住宅、民間アパートへと避難者が移動していくとともに、アクセスが妨げられると考えられる。そういった背景の中で、被災者・避難者用公共PC・インターネットを、自治体、社会福祉協議会、市民団体など、管理可能な箇所に設置することは有効である。
携帯電話が唯一の個人的な情報源・通信方法である場合が多い。通信会社による被災者への配慮で一部携帯電話が無料化されたが、携帯会社が無料化の延長、携帯貸し出しを行う効果は高い。
また、インタビュー対象者、その他避難者に対しても、行政も市民団体も情報を積極的に提供していく必要があると同時に、当事者同士のネットワーク化(バーチャル・実態双方から)によるメリットの検討も模索必要がある。

5-2. 多様な対象者とニーズ対応

(A)特別な支援が必要な家族形態:シングル・マザー、母子避難
 シングル・マザーに対しては、仕事と育児、双方において行政、そして市民のサポートが必要である。しんぐるまざーふぉーらむ福島のホットラインの紹介・情報提供も行う。また、夫を残して母子で避難してきている場合も、避難先に残りにくい状況があり、民間の支援が必要な対象である。
母子避難については、地域からはなれて、家族の理解が得られていないこともあり、見知らぬ土地で孤独になる可能性があるため、避難先におけるネットワークによる支援が有効である。

(B)妊産婦
インタビュー対象者のうち、5月に妹家族が栃木県南から那須のホテルに移動することによって話し相手がいなくなることを憂いていた妊産婦さんには、本人にその希望を確認し、学生がおしゃべりにき、好評である(「おしゃべりボランティア」と命名)。今後、その効果については、当事者である妊産婦、ならびに学生に確認をする。
また、今回妊産婦が、積極的に相談をしたいと感じているというニーズに直面した。そのため、今後、公営住宅で暮らしている妊産婦にもアクセスし、助産師とともに健康や生活相談を行っていう意味は当人にもあると考えられる。つまり、ニーズ調査としてインタビューを行っている本研究は、健康・生活相談を兼ねることによって、調査結果のみならず、その行為そのものにも、インタビュー対象者にとって意味がある。

6.今後の方向性
事態の収束は見られないにもかかわらず、栃木県内の避難者は二次避難所に集約され、その他の避難者は公営住宅・アパートなどに移り、避難者のニーズがさらに見えにくくなる。よって、5月以降継続している避難所、二次避難所における聞き取り調査を継続し、避難者の変容するニーズを可視化していく必要である。そのためには、栃木県からの情報提供に基づき、避難者の状況を把握する方法を模索する必要性がある。特別に公営住宅への入居が行われていた妊婦は、避難所を情報収集の場としており、調査者へ自らアクセスしてきたことを考えると、このようなインタビューの場は、避難者にとってもメリットがあると考えられる。また、その他の父母も、「話を聞いてもらえるだけでも良かった」と、外部者との対話の場が、精神的なストレスの解消の場となっている。つまり、本プロジェクトを通して報告される調査結果のみならず、インタビューそのものも避難者にとって意味があることが示され、人道的な側面においてもプロジェクトの重要性がある。
5月に入り多くの避難所が閉鎖されたが、栃木県災害対策本部と「道の駅那須の友愛」における県担当者が避難者の受付の場となる。
 なお、栃木県災害対策本部に二次避難所における乳幼児・妊産婦に関する情報を依頼し、実際5月4日に入手した。また、公営住宅に入居している妊産婦・乳幼児家族にアクセスする方法も交渉している。民間で生活する避難者に対しては、県を通して乳幼児家族や妊産婦を把握するのは困難であり、今後どのような形でアクセスするのか、その方法を検討する必要がある。
 また今後、福島県の連携団体との情報交換に基づき、福島県内の乳幼児・妊産婦のニーズ把握にも着手したい。

7.配布資料
以下の資料を、それぞれのニーズにあわせてインタビュー対象者に提供した。
【住居・家財】
・ 宇都宮まちづくり市民工房「家具・家電提供情報」
・ 宇都宮まちづくり市民工房「アパート入居相談会」
・ ハローワーク「被災者の雇用促進住宅の受け入れのイメージ」
【仕事関係】
・ ハローワーク「広域求職活動費」と「移転費」の概要
・ ハローワーク「東日本大震災に伴う雇用保険給付の特例措置について」
・ 梨農園からのお願い
【受け入れ先】
・ NPO法人ふるさと「新規就農希望者募集中」
・ 千葉県鴨川大山支援村の概要
・ 一般社団法人ノオト「疎開受け入れの準備を進めています」
・ 東京都助産師会「東京里帰りプロジェクト」
【他】
・ しんぐるまざーずふぉーらむ「女性&シングルマザーのためのパープルホットライン」
・ 東京都福祉保健局「災害時の「こころのケア」の手引き」


付記:記入フォーム
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福島乳幼児・妊産婦支援プロジェクト

Author:福島乳幼児・妊産婦支援プロジェクト
宇都宮大学国際学部付属
多文化公共圏センター
〒321-8505 栃木県宇都宮市峰町350
TEL&FAX: 028-649-5228

メール:fukushimachildren@gmail.com(@を小文字に)

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